1996年3月1日 第2号
発行=草子舎

2月の風景「タカ」
上を向いて歩こう

野末たく二

 年末に二度ほどタカを見た。一度は、クリスマスの頃。娘を連れて、クリスマスリースを作ろうとツタを採りに宍塚大池に行った時だ。宍塚大池は、吉瀬とは常磐高速自動車道をはさんだ東隣の土浦市にある。ため池の周りに、広々とした雑木林が残っている。オオタカがいることは前から聞かされていたが、まだ一度もお目にかかっていなかった。
 適当なツタはないかと、あれこれ木を物色していた時、タカを見つけた。葉が散りきったとはいえ、上の視界は限られている。見晴らしの良い場所に移動したが、タカはすでにいなかった。
 もう一度は、上境と中根の集落辺りだ。今年もあと数日という日で、家に向かって歩いている時だった。田の向こう、上境の集落の上を鳥が一羽、上昇気流に乗って大きな円を描いている。カラスの「風乗り」は上や下に落ち着かない。トビはこの辺で見ない。タカだと直感したが、まだ半信半疑だ。

タカに見つめられ村は孤島になった

 急いだ道だったが、だめで元々とクルマを農道に入れて、そっと鳥の下まで行った。やはりタカだった。
 タカは、集落の二、三十軒をすっぽり包むはどに大きく円を描きながら飛んでいた。クルマからでも、あごを引き、下をうかがっている様子が分かる。しばらくして、つっーと風に流されると、タカは隣の中根の集落に移った。年末の昼前なのに、集落の中は幸いクルマは走っていなかった。タカの速度に合わせてしばらく付いていったが、中根の集落を出た辺りで見失ってしまった。
 上境も中根も吉瀬からさほど遠くない所にある集落だ。集落という島から島へ、のどかなタカのホバリング。それに対し、人間の何とせせこましいことか。タカは筑波山の方角に飛び去った。「鷲のすむ」は万葉時代の筑波山の歌枕だ。ワシでなく、タカだが、神など上から見られる感覚を人は喪ってしまった。
 二度あることは三度。あれ以来空ばかり見ている。上昇気流が起こりそうな晴れた日は、とくに気が気でない。そんな期待に応えるように、一月、天は星を落とした。隕石だ。花火のような爆発音が首都圏一帯にしたというが、その日は三十分前まで近くの公園で日向ぼっこをしていたのに、幸運に巡り合えなかった。現実というのは、こういうものだ。


【ジュニアクラブ】小・中学生のためのネイチャー教室
「わたしの芽」を見つけよう

 一年の暦(こよみ)は、春、夏、秋、冬の四つに分かれています。ことしは2月4日が「立春(りっしゅん)」ですので、暦の上ではその日から春というわけですが、まだ寒いですよね。では、どうなった時、私たちは春を感じるのでしょうか。
 少し大きめの辞書(じしょ)を開いて、春ということばを調べてください。一つに草木の芽(め)が「張(は)る」ことから春と言われるようになった、と書かれています。ということは、植物の芽を見ていれば春が来るようすが分かる、ということですね。
 くらしが便利になった反面、家のなかで生活することが多くなりました。だから、春がやって来るといっても、分かりにくいのかもしれません。この「私の芽(め)」は、春を見つけられるかんたんな方法です。きっと春のおとずれを体で感じることができると思いますから、チャレンジして下さい。

枯れ木に注目
 すっかり葉を落とし、「まるぽうず」になった木。いかにも寒そうですが、「春さがし」は枯(か)れ木をじっくり見ることから始まります。
 枯れ木をじろじろ見ていると、いろんなものが発見できます。つくばは、大きな通りに、かならず木が植えられていますが、鳥が去年作った古い巣(す)などを見つけることができます。また、木にぐんと近づくと枝(えだ)の先になにか付いているのが見つけられます。
 枝の先やわきのところに、ぽつんと付いているのは、芽です。中には温かそうな毛のコートを着ているものもあります。また、つめの形のようなものもあります。いろいろな形の芽のなかから、自分の気に入った芽を決めましょう。ただし、自分の背がとどくくらいの技にしてくださいね。

テープを用意
 次に色のついたビニールテープを用意します。できたら電気工事などに使う少しはばの広いテープがいいのですが、そこに自分の名前と日付を書き入れてください。そして、それを自分の気に入った芽が付いている板にぐるりと、まきつけます。これが、あなただけの芽、つまり「私の芽」です。
 あとは、ときどきこの芽がどのようになっていくのかを観察(かんさつ)するだけです。もちろん、観察ノートを用意して、毎日変化のようすを書いてもいいのですが、見るだけでいいのです。よし、書くぞ、などとガッツを込めてみても、いつかあきてしまうものです。そうした時は、続かなかったという悔(く)いだけが残って、あとが続かないことがあります。
 芽が大きくなっていくようすを、のんぴりながめるのも楽しいことです。雨がなん日かふり続くと、そのあとに暖かい日がやってきます。洋服を一枚、二枚と脱(ぬ)いでいくころ、木の先がなんだかぼおっとふくらみ、ある日、とつぜん芽が爆発(ぱくはつ)します。そしたら、花の形や色、または葉の形を調べ、木の名前を調べてみましょう。こうして一年にひとつずつ木と友だちになることができます。
 「私の芽」は、あなたの回りにある木でしたら何でもけっこうです。まったく、名前の知らなかった植物がその日から、自分の身近な植物になることは、すてきなことです。次に紹介(しょうかい)するものは、よく見ることができるものです。参考(さんこう)にして下さい。

テープを巻くだけで「私の芽」ができる

コプシがはぜた
 春の花といったら、何を思い浮かべますか。ウメ?サクラ?ですか。コプシは、ウメやサクラなどのつぼみより大きく、その名前からも分かるように、つぼみがこぶしのように丸くなっている木です。コプシの花は、葉よりも花が先に出ます。花には少しよじれた花びらがついています。
 地元の人が、ヤマとよんでいる雑木林(ぞうきばやし)は、冬の間木の葉がすっかり落ちてしまいます。コプシの花は、ヤマのねむりをさまします。雑木林のほかに、まちの通りや公園でも見ることができます。

コブシの木 コブシの芽

若葉の手紙
 「あかんぼう」ということばは、生まれたばかりの子を「赤」という色で表しています。また、べつの言い方に「みどりご」ということばがあります。こちらは「緑」です。枝(えだ)先に葉が出るまでの色の変わり方は、「赤」から「緑」へ少しずつうつっていきます。葉が生まれるまでの色の変化を見ましょう。
 若葉が生まれるまでの色の変化が分かる木として、ケヤキ、コナラ、モミジ、カエデ、トチなどの木があります。
 たとえばケヤキは、枝先がうすく赤く色づいて、やがて茶色になり、ある時、木全体が、ぼぉっとうすい緑になったかと思うと、新しい葉が一気に生まれます。生まれたばかりの葉は、手紙を二つにおった形をしていて、それが少しずつ開いていきます。どんなに小さくても、ケヤキ葉のギザギザがしっかりきざまれているから、ふしぎです。

トチの芽

 芽のようすをじっくり見るには、トチの木は芽が大きく、見やすいかもしれません。トチは、もともと山の谷ぞいに生えている木ですが、つくばでは、まちの通りに植えられ、たやすく見ることができます。すっかり葉が落ちた枝先についた芽は、つめの形をしています。芽が先に、ちょこんと付いた枝は「ほこ」のようです。芽から出た葉は、夏ごろ、大きな「うちわ」のような葉になります。また葉の間からは白い花が、ぐんとのびて咲いたりします。それが、いつごろかじっと見まもっていて下さい。


【フィールド・ノオト】
地球の歴史を探ろう◆地質標本館

 1996年1月7日、つくば市内を中心に広い範囲にわたって隕石が落下しました。地球には、毎日数トンもの隕石が降りそそいでいるといわれますが、隕石そのものを見つけることはまれです。もし、町中に落ちて人を傷つけるのでなければ、思わぬ宇宙からのプレゼントといったところでしょうか。
 ところで、この隕石の破片は、太陽系や宇宙誕生のなぞを解くかぎになります。つくば市にある産業技術総合研究所地質標本館に、つくばの隕石を始め、明治13年(1880)に兵庫県に落ちた「竹ノ内隕石」などが展示されています。
 地質調査所は、隕石のほかに地球上のあらゆる石や地層などを調査研究をしています。標本館にはさまざまな標本や模型が展示されています。人類の歴史は、地球の歴史の尺度からいえばわずかです。たった一個の石にも人類が誕生するよりも多くの歴史が刻まれていることを実感させられます。
▽地質標本館=つくば市東1−1−3/JR常磐線荒川沖駅より、つくばセンター行きバス「並木2丁目」下車、徒歩5分/開館=午前9時30分〜午後4時30分/休館=月曜日(祝日の場合は火曜日)、年末年始/入館無料/夏休みには岩石相談などの催し物開催/電話029-861-3750


◇わずか四ベージのなかに何が盛り込めるか。大袈裟に言えば、情報があふれた現代社会で、一つの挑戦だと考えている。一日生き延びれば一日分の記録が積み重なる。月日かたてば、忘れてよいことが消え、伝えなくてはならないことが残る。そこから何をすくい取るか。二か月に一度の四ページは、苦しみであり、楽しみでもある◇年度末、あちこちで道路工事が始まった。不景気だが、個人経営の身にも厳しい納期の仕事が増える。何を書くかを考える前に、書かざるを得ないことを文字にする。◇もう限界かなと思っていた所へ雪が降った。これはうまい口実ができた。仕事を放り出しベランダにミカンの輪切りとパイナップルの細かく切ったものを置いた。まずやって来たのはヒヨドリ、二羽。体の大きな方が最初に食べて、小さい方は待っている。大きいのが満腹になると、次は小さい方の番だ。そのうち、メジロがやってきた。スズメも来たが、ある一定の距離内に入って来ない。これは雪の幸い◇仕事が一段落し、吉瀬通信の中身について、イラストの松本君とあれこれダベリながら決めていく。本当に書きたいことは何か。書く幸いを思う。

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